ファッションの批評誌『vanitas』

foreword(No. 009–)

ファッションを批評することにはどのような意味があるのだろうか。それは、ファッションデザイナーの作る衣服やファッションデザインを語ることにとどまらない。過去をひもとき、現在を見通し、そして未来を創る──そのような営みこそがファッション批評ではないだろうか。ファッションをめぐる問いは、ほかでもない私たち自身にひらかれている。

日本にはファッションの批評がないと言われ続けてきた。そうした状況を更新すべく、2012年、われわれは『vanitas』を創刊した。そして、創刊時に記したように10年後、50年後を同時に視野に入れ、研究論文やインタビュー、海外のファッションスタディーズの紹介など、さまざまな仕方でファッション批評の構築を試みてきた。

いまや多様な方法でファッションが問われ、不特定多数にひらかれたファッションの語りの場が数多く生まれている。『vanitas』が目標に掲げたファッション研究・批評の構築、その土壌は整いつつあるだろう。小さく始まったわれわれの試みはいま、多くの読者=語り手に受け継がれ、新たな広がりを見せている。だからこそ、あらためてその開始地点に思いを馳せたい。ゆるやかに、しかし確かに、歩みを止めることがないように。

ファッション批評の未来を紡ぐことは、ひいては私たち自身の未来をつなぐことなのだと信じて。

2025年 『vanitas』 編集部

foreword(No. 001–008)

日本にはファッションの批評がない、としばしば言われる。ファッションは文化として認められないことがよくあるが、その理由の一端はここにあるのではないだろうか。ファッションがビジネスであることを謳いながら、「ファッションに批評は似合わない」と言われることもある。だが、現代では美術も音楽も映画も文学もおしなべてビジネスとしての側面をもっており、ファッションだけが特権的な立場にあるわけではない。

とはいえ、批評の不在を嘆いていても何も始まらない。われわれに出来ることはただひとつ、がむしゃらにでも進むことである。過去も、現在も、未来もすべて引き受けよう。たとえそれが無謀な試みに見えようとも。

批評はひとつの制度であり、それを一朝一夕に確立することは難しい。本誌は「批評誌」を謳っているが、狭義の「批評」におさまるものではない。研究者による論文もあれば、デザイナーによる試論もある。インタビューもあれば、海外のファッション研究の紹介もある。一見すると「批評」以外のものが多いように思われるかもしれない。だが、これらはすべて批評の構築のためにある。われわれは現在だけでなく、10年後、50年後を同時に視野に入れている。大仰な表現かもしれないが、批評を根付かせるためにはそのくらいの時間が必要だろう。だが、まず第一歩を踏み出さねば物事は始まらない。

この『vanitas』という小さな一歩が、大きなうねりを生み出すことを願う。

既刊紹介

No. 001(品切) http://adachipress.jp/fashionista001
No. 002(在庫あり) http://adachipress.jp/vanitas002
No. 003(品切)  http://adachipress.jp/vanitas003
No. 004(在庫あり)  http://adachipress.jp/vanitas004
No. 005(在庫あり)  http://adachipress.jp/vanitas005
No. 006(在庫あり)  http://adachipress.jp/vanitas006
No. 007(在庫あり) https://adachipress.jp/vanitas007
No. 008(在庫あり) https://adachipress.jp/vanitas008
No. 009(在庫あり) https://adachipress.jp/vanitas009

紹介記事

REPRE 12号(2012年5月) 『fashionista』創刊記念インタビュー
Fashionsnap.com(2015年10月) 何が変わった?ファッション批評誌「ヴァニタス」が最新号発売
WWD JAPAN(2019年7月) ファッション教育、研究、批評の現在 「vanitas No.006」

ブックガイド・リンク集

ファッションデザイン研究のために有益な書籍や論文へのリンクです。各テーマに関する解説は『vanitas』No. 006をごらんください。
https://adachipress.jp/vanitas006-reference

論文・批評の公募

【公募は締め切りました(2023年12月5日)】
次号No. 009(2024年12月刊行予定)の公募要項は下記のリンク先をごらんください。
『vanitas』No. 009 論文・批評の公募について

編集委員プロフィール

蘆田裕史(あしだ ひろし)
1978年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターなどを経て、現在、京都精華大学デザイン学部教授。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)、共著に『ファッションは語りはじめた――現代日本のファッション批評』(フィルムアート社、2011年)など、訳書にアニェス・ロカモラ&アネケ・スメリク編『ファッションと哲学――16人の思想家から学ぶファッション論入門』(監訳、フィルムアート社、2018年)、ヴァレリー・スティール『ファッションセオリー――ヴァレリー・スティール著作選集』(監訳、アダチプレス、2025年)などがある。本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。

水野大二郎(みずの だいじろう)
1979年生まれ。英国王立ロイヤルカレッジオブアート・ファッションデザイン博士課程後期修了。芸術博士(ファッションデザイン)。慶應義塾大学環境情報学部准教授を経て、京都工芸繊維大学デザイン科学域デザイン学専攻教授。共著に『リアル・アノニマスデザイン』(学芸出版社、2013年)、『x‐DESIGN』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『FABに何が可能か』(フィルムアート社、2013年)、『インクルーシブデザイン』(学芸出版社、2014年)、共監訳書に『クリティカルデザインとは何か』(BNN新社、2019年)など、訳書にアルトゥーロ・エスコバル『多元世界に向けたデザイン――ラディカルな相互依存性、自治と自律、そして複数の世界をつくること』(監修、ビー・エヌ・エヌ、2024年)などがある。多岐に渡り社会とデザインを架橋する実践的研究に従事している。

編集:鈴木彩希(ファッション史、ファッションスタディーズ、表象文化論/関東学院大学人間共生学部共生デザイン学科講師)
デザイン:太田知也(デザイナー、リサーチャー)
ロゴ、マーク:UMA/design farm)
発行・発売:株式会社アダチプレス

ウェブサイト http://adachipress.jp/vanitas

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